コラム「RAFの行方」(1)
「フェアネスの行方」
ミスコンダクトに係るメディア情報を収集していると、最近では「ESG」関連と並んで、「反ESG」や「反woke」関連のものが多くなってきた。特に米国では、ESG的主張を主導するファンドや金融機関等をwoke capitalism(社会的公正に目覚めた資本主義)の手先と揶揄し、これに反発する動きが共和党支持者を中心に広がっている。またフロリダ州のデサンティス知事などは、既に州内の様々な規制策定に際してwoke色を取り除く方向に動き出している。こうした動きは、社会における「フェアネス(公正さ)」とは一体何なのかを、改めて考え直すきっかけになっているように思う。
日本経済新聞社は最近「フェアネス」という考えを持ち出し、世界の政治的分断が進む中、世界をつなぎ留めるのはイデオロギーを超えたフェアネス(公正さ)だと説いた(「グローバル化は止まらない 世界をつなぐ「フェアネス」」 2023年1月1日)。非常に興味深い主張ではあるが、そのフェアネスの定義がよく分からない。同社はフェアネスが、同社が開発した「フェアネス指数」から測定できるとする。同指数は、①政治と法の安定(30点)②人権や環境への配慮(30点)③経済の自由度(40点)の3分野から10指標で構成されている。①や②は米非営利団体のフリーダムハウスや米エール大の指標が活用され、③にはやはり米シンクタンクのヘリテージ財団の指標が活用されている。どうやら、政治的自由度や経済的自由度、さらには環境や人権への配慮が考慮された指標らしい。もっとも、使用している指標が全て米国の団体から出ていることをみても、「イデオロギーを超えた」概念というのはやや誇張のように感じる。実態としては、米国でもやや民主党寄りの人々が共有する「フェアネス」という概念に近いのではないだろうか。
私自身、長く、企業のステークホルダーが同企業に対し有する期待と、企業自身のコンダクト間のギャップ、つまりステークホルダーからアンフェアだと認識されるイベントこそがリスク・イベントであり、それを「見える化」して管理することがRAF流リスク管理であると説いてきた。換言すれば、ステークホルダーの「フェアネス」の物差しこそが、当該企業のリスクの物差しとなる。但し、RAFにおけるフェアネスの定義に関しては、自社の「主義・主張」をそこに持ち込むべきではないとも考えている。フェアネスの中身は、各ステークホルダーそれぞれが判断するものであり、エージェントは基本的に受け身の立場だ。
上記はもちろん、各企業が例えば「ESG」的主義主張をもつべきではないと言っているわけではない。そうではなくて、例えばある企業がそうした主張を掲げた際に、同企業は、一部のステークホルダーからアンフェアだと見なされるリスクを「敢えて取っている」ことを認識すべきだと言っているのである。さらには、同リスクが自らのアペタイトの範囲内に収まるよう制御することが可能であることも確認する必要がある。
いずれにしても、精緻なリスク管理を目指し各ステークホルダーが認識するフェアネスの程度を測るには、米国民主党型以外にも、米国共和党型や中国共産党型の物差しも用意しておく必要があろう。